チャン島滞在中は殆ど毎日、自分のプライベート・ビーチで過ごすのが日課になっている。
午後3時から5時頃迄の2時間程で、4時過ぎから太陽も少し傾き始め
4時半から5時にかけては太陽の当たる所でもさほど暑くはなくなる。
そよ風程度の風だが、時には日陰のハンモックに居れば肌寒く感じる事すら有る。
ハンモックを片付けて家に戻る準備して、再び岩の上を歩いて砂浜へと向い、
夕日を見ながら海岸の外れにある自分の巣へと2Km余りの砂浜を裸足でゆっくり
夕方の散歩がてらホテルに戻る。
単調な毎日の繰り返しだ。
岩場海岸から砂浜海岸へと辿り着いた時に、何度か海岸で見かけた事のあるひげ面の人から
声をかけられた。
余り英語は達者ではないが、単語を捜しながらゼスチャー交えて話してくる。
どうやら、"この先には一体何が有るのか?"知りたい様だ。
"何もない。ただ大きな石がゴロゴロ転がっているだけの私のプライベート・ビーチ、
自分で名付けたパラダイス・ビーチだ"と説明した。
身振りで海水パンツを下げ降ろす格好して、"裸で日光浴も出来るか?"と質問。
"誰もいないから勿論出来るよ。時々そんな人も来る事有る。"と話したら
"お前は平気か?"と聞くので、"岩が沢山有って、何も見えないし大丈夫"と
話したが、様子が分からないので想像出来ないのだろう。
"一度見に来て様子見れば・・?"と言ってそのまま彼と別れた。
タイでは海岸でのヌーディストは法律では禁止されている。
多分、その事を懸念して聞いたのかも知れない。
とはいえトップレスはファミリービーチから離れた海岸北部では一杯見かけるし、
ホテルに戻る日没時、何度か男だけでなく女性も含めてヌーディストを見かけた事も有る。
数日後、パラダイス・ビーチに着いて海岸を見ると誰かすでに先着が居る。
ここ迄知らない人が来るのは珍しい事だが、誰か知っている人だろうか?
以前逢った事のある顔見知りの誰かが島に着いたのだろうか? 誰だろう、と思いながら自分の
場所目指して進んで行った。
素っ裸で海岸入り口からも見える所を闊歩しているのが、こちらに向かって手を振っている。
先日逢った、ひげ面の男性だ。
後から着いた自分が潜入者の様に、人懐っこく笑顔で迎えてくれて握手した。
"此処はローカルな人達が釣りに行くのに通るから、注意した方が良いよ"と忠告したが
余り気にもしてない様だ。
岩ばかりで何の障害物もない自然そのままで、誰もいない全く手付かずの海岸が気に入った様だ。
既に6ヶ月も島に居るのに、今日始めて此処に来た、知っていればもっと早くに来られたのに、と
人の多い海岸しか知らないだけに驚いていた。
その後何度もパラダイス・ビーチで会うので、話す機会も多く、一人旅をしている彼には
話し相手も出来て、その上おしゃべりでよく話す。
ジョージはニューヨークで7年間働いていた、と言うが、何をしていたのか?
その割には英語が充分出来なく不思議だ。
出身はロシアで、モスクワで2軒の小さなアパートを持っていて、今は貸している家賃で
ここでの生活費にしていると言う。
数年後にはアメリカから多少でも年金が出るので助かるが、ロシアはそんな物当てに出来ない、
ロシアに帰る気は全くない、とも話す。
アメリカで仕事なしで暮らすにはロシアから届く家賃だけでは充分でないが、
ここでは何とか暮らせる。
山側のバンガローで、長期という事で、今、ハイシーズンだから多少値上がりはしたが、
1泊1300円余りで宿泊出来て、宿から湯沸かしとトースターを貸してくれたし、インターネットは
隣のリゾートの暗証番号貰って、それで繋がる。
扇風機にお湯のシャワー、必要な物は全て揃って、何不自由なく暮らせると続く。
一度彼が海岸に居る時釣りをしていたら、ハタと鯛に似た魚、全部で3匹、
充分食べられる程大きいのが釣れた事が有る。
バンガローには自炊出来るようバーベキューも有るからそこで焼いて食べに来い、と
誘ってくれた事が有る。
それより、魚を上げるから、焼いて食べれば良い、とプレゼントした。
そのお返しのつもりなのか、バンガローに山からトラックで売りに来るから、と
みかんを買って、持って来てくれた事が有る。
なかなかキメ細かく、気の利く人だ。
岩の上に横になっているのは矢張り砂浜と違って腰が痛くなる。
本当はハンモックが有れば、木に吊るして便利だけど。。。と話していたら、
バンガローに有るので明日持って来る、と早速翌日からハンモック持参で来る様になった。
ホテル形式が増えて、ホテルでは吊るす場所がないので最近は店でも、何処ででも買えなくなり、
この数年間買った事もなかったが、これを機会に又毎年ハンモックを買って、
海岸に持参して使う様になった。
ジョージのお陰だ。
彼の住んでいるバンガローは一人旅している人が割と多い様で、
安く旅する若い人やロシア人も良く泊まると話す。
夕食後の散歩の途中、買い物中らしいジョージと偶然コンビニから出て来る所とかち合った時に
一緒だった婦人も、一人旅のロシア女性だと紹介された。
25歳のロシアの女性ともバンガローで知り合って、懇ろになった様で
回りに知り合いも多いバンガローだと目立つから、と5倍程値段の高い、海岸に在るバンガローで
一夜を共にする事に決めて、夕日を眺めてロマンチックに過ごせる様にと、海岸側の高い部屋に
散財する事にしたらしい。
暫く顔を見る事もなく、ひょっとしたら彼女と一緒に島を出て行ったか?と思っている矢先、
海岸に再び現れたジョージ。
彼に取っては大金はたいた一夜も、満足出来ぬ感じに終えた様で、それ以上は立ち入らないが
25歳と60歳のギャップが有った様だ。
テラスも夕方は蚊が多くて、とロマンチックな夕日鑑賞も出来なかった様で残念だ。
それでも一度、海岸に彼女を連れて来て紹介してくれた。
着くと同時に挨拶もろくにないまま、トップレスで岩の上に寝っ転がって日光浴を始めた。
自分は全く気にもしなかったが、ジョージにはそう言う無神経さが気になると言う。
ロシア人が大勢島に来る様になって、マナーが悪いナンバー・ワンと言われているが、
彼の年代、海外での生活した経験が、余計にピリピリ感じるのだろうか、ロシア人の行動が
色々気になる様だ。
ホテルでのドアーの開け閉めに気をつける事なく音を立てるのは未だ我慢しても、
コンビニで買った物を何処ででも食べて、後始末しないで散らかし放題で平気な事や、
周りの人の迷惑を考えぬ行動に、彼らの評判は悪い。
旅行でタイ迄来る人達は、ロシアでも金持ちの部類だが、反面、成金さんの金の力で偉くなったと
錯覚する、悪い点を持っている。
従業員を上から見るような態度を取ったり、何かと我がまま不満を言うのも彼らだ。
1週間足らず程の期間、毎日同じ時間に海岸に来て、毎日同じ平らな大きい岩の上で
柔軟体操して行く人が居た。
ジョージ曰く、"ロシア人だ!"と。
僕曰く、"KGBだ!"と。
まさか、と笑っていたが、きゅっと締まった筋肉、見るからに強靭で、
どんな行動でもすぐ起こせる体つきは、鍛えられた肉体を持つKGBに違いない。
ジェームス・ボンドの敵、プーチンの友人に違いない、聞いて来い、とせき立てた。
相手もジョージを見て、直ぐロシア人と見当付けたらしい。
お前の相棒は日本人だろう、とも言ったと言う。
ただ、KGBに関しては一笑してノーと言ったが、果たして本当の事を白状する物なのか
疑問の余地はある。
笑顔が爽やかな40歳位のロシア人。
今年も10日程、海岸に毎日来ていた別のロシア人が居た。
目立たずひっそり岩陰で時間を過ごすが、矢張り柔軟体操的な運動もしていた。
スリムで筋肉質の背の高い矢張り40歳位の男性だが、KGBじゃないかと内心思っていた。
英語が出来ないと聞いていたので、挨拶程度のやり取りしかなく確かめる事は出来なかった。
ロシアのスパイは皆英語が達者で、言葉のみならずその国の習慣、仕草、訛り、
全て学んでその国の人と間違える程だ、というのはスパイ小説の読み過ぎだろうか。
以外とロシア人は逢う人皆、英語が出来ない。
一体、外国語として何を学ぶのか、今度機会があったら聞いてみたいが、
多分近辺の国の、どこかのスラブ系の我々には馴染みない外国語だろう。
ジョージがタイに居るのは、未だ物価が安く自分の限られた予算で生活出来るから。
もっと物価の安いタイ近辺の国々も一度は回って来てはいるが、グローバルに見てタイが
一番生活し易いと判断した様だ。
完全に未開発ではなく、程々に開発されて住み易い国になっている事も
長期滞在者には矢張り毎日の生活には助かる。
チャン島で彼とは3年前に別れて、帰り間際に今度、サムイ島に行くつもりだ、と
教えられていた。
サムイ島は開発されすぎていると聞くが、大丈夫だろうか、と話したが
ヴィザの為、一度出国した後、サムイ島に入る、と計画していた。
フランスに戻ってからは、メールとフェイス・ブックでのやり取りしかないが
サムイ島に計画通り住み着いて、3年間既に滞在している。
島は開発されたとは言え、どの場所かによって、島全体全てが高級リゾートで
埋め尽くされている訳でないから、彼の望むパラダイスを見つけてすっかり気に入ったようだ。
1年を通して、シーズン中の良い時期だけの滞在ではないく、雨期とか蒸し暑く決して快適とは
言えない時期も、サムイ島に住んだ方が、特にそう言う時期にこそ、町としてもっと発展している
サムイ島の方が凌ぎ良いのだろう。
多分、もうチャン島に戻って来ることはなさそうだ。
只、アメリカから多少の年金が来る様になったかも知れないが、ロシアから届く家賃で生活する
ジョージには、今ルーブルがメチャメチャ安くなっているので、生活も以前より大変だろう、と
気に掛かる。
A Chiang Mai le 22 Mars 2015
一森 育郎
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