IKUOのひとりごと 〜フランス便り〜


<2019.8.20 File No40>


メイエで君を待つ


フランス地図を開くと、ど真ん中に見つけられる、人口147人の
小さなメイエ村がある。
何の変哲もない、食用のシャロレ牛と羊の牧場に囲まれた静かな村が、
一躍この夏、話題の中心になった。

メイエ村には近辺の多くの村と同様、ロマネスク形式の残る12世紀に作られた
教会が残っている。教会ファッサードの彫刻が綺麗に残っているので、バカンスを
ロマネスク教会巡りを楽しむ愛好家たちが多く訪れる以外、村には何も無い。

オーヴェルニュ地方に属するが、一番北の部分に当たるアリエ県に位置するので
オーヴェルニュの特徴的な山々はない反面、なだらかな起伏が、平和でのどかな
風景を楽しませてくれる。
メイエ村はアリエ県のブルボン地区に属する一つの村である。
ブルボンは名の如く、フランス国王、ブルボン王朝の発祥の地である。
近くの町、ブルボン・ラルションブールでブルボン家第1代目がお城に住み着き
第4代目に当たるアンリ4世が、ルネッサンス期のフランソワ一世で代表される
ヴォロワ家の後を継いで、ブルボン王朝第1代目の国王となり、
フランス革命でヴェルサイユ宮殿からコンコルド広場でのギロチン台へと
連れられたルイ16世までがブルボン家の血をひいたブルボン王朝になる。

2017年秋メイエ村にあるサン・ジュリアン教会でチェロ奏者、植草ひろみさんのコンサートが
開かれた折、まだ見ぬ教会、村をイメージして作曲された曲の
タイトルが<メイエで君を待つ>で、コンサートの後、教会修復費の問題で
困っていると村長さんからの話で、彼女はこの曲の入ったアルバムの収益から、
寄付させて頂きたい、と申し出られたのが、今回のイベントへのきっかけになった。

何度か企画会議にも呼ばれて、意見交換した結果、イベントが
7月20日から28日まで教会、修復費キャンペーンとしていくつかの催し物をその期間中に開催し、外部の人々への教会宣伝、
村宣伝兼ねてアッピールする事になった。
タイトルを<メイエで君を待つ>、そしてサブタイトルを
<メイエと日本の友情>という事で決定。
教会ともの会のメンバーの方々とも、同じメイエ村に住んでいても全く知り合う機会がなかったが、みなさんとも仲良くなれて、和気藹々と進んでいく。

当初、予定されていた村のイベントルームでの、写真家Patrice Dhumes による教会写真展に加えて、日本人によるアート展を合同展としてすることに決まった。
但し、サブタイトルが示すように、メイエに来たことのある作家さんたちの展覧会、ということに。
その上、作品の輸送問題のないように、私の持っている作品の展示、という限定付きだがアーティスト20人の展覧会になった。

7月20日から28日まで、手前の部屋で教会写真展。
奥の窓のある部屋で、メイエを訪れたことのある日本人20人展を開催した。
二つの部屋の間には、Tamiser主宰されている宮崎慎子、森田幸次さんのメイエ村の
住民宅、森で見つけた植物によるスペース・インスタレーションを展示。

  フランスで一番発行部数の多い日刊紙La Montagneや、La Semaine d’Allierで大きく取り上げてくれたりラジオやフランス国営テレビFrance3での放映もあり、今回のイベントは前宣伝が十分行き渡り、展覧会スタートと同時に反響が大きかったのはスタッフ一同、大いに勇気を与えられた。

翌日21日は朝9時からテレビの撮影隊が教会に来ることになり、その日の19時と翌日12時のニュースで放映された。
Tamiserの植物によるインスタレーション、3人のアシスタント交えて5人で大奮闘。
教会でのひろみさんのチェロのリハも少し。


慌てて済ませた昼食後、すぐアリエ県、
県庁のある25Km離れたムーラン市へ移動。参加アーティスト全員揃うのがこの日しかないから、と、日曜日に関わらず市長さんが我々の為にレセプションを市庁舎で催して下さった。アーティストの皆さんにプレゼントを、そしてチェロの植草ひろみさんには、感謝の気持ちを、とムーラン市のメダルを進呈された。

現ムーラン市長、Mr. Pierre-Andre Perissol 氏は、シラク大統領の時代には住居大臣を務められた方で、当時住居購入の利息0、という法律を作られた政界で名を轟かせた方である。

17時開演ということで準備進めていた植草ひろみチェロコンサート。開演時間を大幅に遅れが出たが、まだ入れなくお断りした人もいて、嬉しいと同時に申し訳ない思いで、いよいよスタートすることができた。当日券しかないので、どのくらい来てくれるのかその時になるまで見当がつかない!その上、外は猛暑で果たしてどのくらい来てくれるのか心配だったが、開演1時間以上前なのに人が集まり始めて涼しい教会の中に入り始め、まだマイクなど設置中で戸惑ったが、人は増える一方で、開演時間5時になってもまだ長蛇の列が続く。。。
椅子が足りなく慌てて追加するものの、座れなく立ち見を覚悟の人達も、後を絶たない。



今回のコンサートでは、全曲全てひろみさん作曲のオリジナルのみで演奏された。3曲目に<メイエで君を待つ>を演奏され村長さんに教会修復費のための封筒を渡された時は、クライマックスで会場から拍手が止まらない。。。
みなさん知らない曲ばかりに関わらず、彼女の説明を聞きながらすっかり音楽に溶け込んで魅了されていた様子が伝わって

コンサートは大盛況のうちに終了。
アンコールで初めて誰もが知っているフランスの曲、愛の讃歌を演奏され、大変喜ばれた。
そして、その上、最後のサプライズ!
再び<メイエで君を待つ>の演奏に、日本から来た人達がみんなで、フランス語で合唱しました!!浴衣姿で!! 観客の喜びようが、想像できますか?
人口147名のメイエ村の教会、入場者が230名。プラス我々日本からの人達にスタッフ加えて、250人ほどの人が。800年余りの教会の歴史に、おそらく初めての出来事だろう、と村長さんも友の会の人々も驚いていました。

翌日夕方、ムーラン市長さんの計らいで、観光客の多いコスチューム・美術館
見学を特別にガイドさんつけて準備して頂いた。
そして夜8時開演で、すぐ横にあるEspace Villarsでムーラン公演開催。


チェロ・コンサートの後、村役場の庭で冷たい飲物のサービス後、去年秋にオープンしたイタリアン・レストランで、みなさんと教会ともの会メンバーとのディナーで、新睦会を催された。
まずは大事なイベントの成功で、誰もが久しぶりに熟睡できた夜になっただろう。

薮内綾の短編映画上映、鈴木香里のダンスパフォーマンス、横田麻友子のピアノコンサートに、メイエとの関連性持たせて植草ひろみのチェロとのデュオで最後に<メイエで君を待つ>友情出演。
教会では出来ないので、ムーラン市の協力で、会場の提供をされた。会場装飾されるTamiserのスタッフ達は毎朝6時から森に行き、素材収集されて

日の出の頃に我が家に戻ってくる生活。
ムーラン会場は趣変えて、ピアノや映像の邪魔にならぬよう床面に、森で集めた
シダをふんだんに使って、 通常のコンサートの飾りと一味違う独自の面白い
飾り付けになって好評を得た。

鈴木香里さん自身の振り付け、そして衣装まで自分のアイデアで、会場を円形にとって。。。と細部まで思いを凝らして創作された<出会い>。
去年のクロアチアでの初演から、何度か見る機会があったが、ムーラン公演は特に雰囲気がよく出ていた。
会場の具合、観客が吸い込まれていく状況、全て一緒に一つのショーへと成り立つ思いで楽しめた。
ダンスとひとことで言っても、理解できないまま心配していた教会ともの会のスタッフたちもショーを見て感激したようで、ホッとする様子が、そして紹介してくれてありがとう、と、感謝されたのが最高のお褒めの言葉になった。

隣の部屋へと移動して、薮内綾さんの短編映画を上映された。
彼女は7月中ずっと腰痛で動けなくなり、メイエに来られなくなったが作家不在に関わらず、上映後にはたくさんの拍手で称えられた。
彼女のフランス語で書いた詩を、映像で表現すればどうなるか?の5分ほどの
短編映画だが、センスの良さや、デリカシーの効いた繊細さが短い時間だが
充分伝わってくる。

最後を飾るのは、横田麻友子さんのピアノ・コンサート。華奢な身体から、エネルギッシュな強い音が同時に、ロマンチックな曲も交えて彼女の世界を見せてくれた。
3年来パリ在住で、ヨーロッパの活動も増えて、益々新しい経験を積んで大きく育つだろうと、期待される若者の一人。

コンサート最後は大先輩の植草ひろみさんの友情出演でチェロとのデュオで
<メイエで君を待つ>を演奏する機会も得た。
今回のツアーの後すぐ帰国され、東京、札幌でのコンサートも盛況だったと報告
受け、初めての日本での凱旋公演になって良かった!!

翌朝は、みんなのパリへの移動日。
第一番出発組の出る前に、村長さんご夫妻もお別れに来てくれ<メイエで君を待つ>を最後にもう一度ひろみさんがテラスで演奏してくれて、皆で名残惜しんだ。いつでも又、メイエで待っているよー!と。メイエの村長さんは、従来、村の何軒かの大事主の息子が受け継ぐのが習わしだったが

今の村長さんは、初めてよそから来た村とは関係ない人がなったので、村人達の現実問題を、
金持ち連中が上から目線で見るのとは違う、と、慕われている。

いよいよイベント最後の日、7月24日はパリの気温が42度の記録的暑さ。
パリ南に位置する国際大学都市の中にある日本館広間で催される。
会場の用意から、進行具合、照明、音響、と何人もの人が準備にかかりリハーサルなしの
ぶっつけ本番の状態で開始されることになった。


パリ公演は、メイエとは関係なくクロアチアのフェスで芽生えたアーティスト間の友情コラボ、ということで全て自分たちで作り上げての公演だ。
案内状も、花の仕事をしている宮崎慎子さんが
各アーティストを思い浮かべて選んだ花を利用して自分たちで作ったものだ。タイトルは、素晴らしき人生謳歌を合言葉に詩的なフランス語の使い方でMerveilleuse est la vie と決まった。

暑すぎて外には出たくない陽気だが、果たしてみなさん来てくれるのか?
おちおち外を歩ける生半可な気温ではない。
熱射病にならなければ良いが。。。と。
フランスの夏、まだ9時半でも明るいのに、ショーの始まる8時は、まだ太陽が
熱を放す暑さだ。

開演時間が近づくと共に、お客さんも増えて最後のショーが薮内綾さんの映像、<Mon Cher>からスタート。(愛しい人)続いてピアノとダンスにバトンタッチ。スクリーンが外されると、ピアノの上にヴェールに被われた鈴木香里さんが伏せている。徐々に動き始めて、まるで眠りから覚めるように。音楽はドビュッシーの<夢>。音だけでなく同時にヴィジュアルが有るのも悪くないな、と思った。当初、ダンスが同時にあるのは演奏家にとって邪魔にならないか?と気になったので一番年少者で遠慮もあるだろう、とピアノの横田麻友子さんに尋ねたら、選ぶ曲によって問題ありません、

と言われたので安心はしていたけれど。

フランス作家のラヴェルやサン・サーンス、ピアソラ、そして植草ひろみ作曲によるバラエティーある選曲を、ソロ、デュオ、ダンスとのコラボで目と耳を楽しめる素晴らしい公演になった。

植草ひろみさんのセ・ラ・ヴィを演奏したいと希望された麻友子さんとのデュオも
出来て、コラボする楽しさを皆さんで味わうことができただろう。
ピアソラのオブリビオンでコラボして踊りたい、と希望していた香里さんも
満足できただろう。
これからもいろんな人とコラボできれば、また新しい道も開けることと信じている。

参加いただいたアーティストの皆さん、お疲れ様でした!
そしてこの素晴らしい時を共有できたことに、皆さんに感謝します。
来てくれたみんなが、何らかの力をどこかで発揮して作り上げたイベント。
素晴らしい体験を今回もできました!



まだ熱い記憶の冷めぬうちに
メイエにて

一森 育郎        2019年8月15日







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