今年で19回目の夏をメイエ村の家で過ごしたが、その間に私の生活パターンも
全く変わってしまった。
ファックスを重宝した時代から今やインターネットの時代に。
我々のような、自由業で物を作る仕事の人なら、何処でも不便なく
時間のロスなく仕事が出来るようになった。
私の場合は、制作工房はすべてパリにあるが、自分でやるべき、その元になる部分は
田舎で作ることが多い。
よって、メイエで造った原型をパリに持って行くか送るかして、
工房で上がった物をパリに居るときチェックして、更に手を加えて仕事を進める。
パリ滞在中は、普段会えない友人たちとの交友、時には展覧会を覗いたり、
パーティーがあったり、と、やることは一杯あって忙しい。
連日クイック・クイックの生活だ。
紙の上ではバランス良いのに、いざ立体で作ると、ぎこちない。
丸1日、たった一つのパターン創りに費やして、気に入った物ができないことがある。
夜中にはっと思いつき、早速仕事に取り掛かると、いとも簡単に思う形が出来上がる。
パリのアパートでも、メイエ村でも、何時でも仕事しようと思えば出来る。
しないで数日過ごすこともあるが、しようと思えば出来る、と言う状態、
要するに自分勝手に、その気になれば出来る、と言うセレクトの自由さが好きなのだ。
日本の雑誌で紹介されたスロー・ライフを実践しているのを見ると
有機栽培されたりとか、自然との対話的な素敵な生活をされている。
私の場合はそんな理想的な生活ではない。
野菜作りの真似事ぐらいはするが、自分の仕事をまず優先的にすれば
他の事にかける時間はそれ程有るものではない。
せいぜい出来るのは、都会の人よりスロー・テンポな生活だ。
1年のうちで今が一番私にとってはクイック・クイックな生活の時期である。
あと10日で4ヶ月近くの旅に出る。
今年は例年より約1ヶ月永くタイのチャン島に行く事にした。
1年の3分の1に当たる。
当然のことながら、その前に片付ける事、留守中の段取りと、やる事が一杯あって忙しい。
年中スロー・テンポでなく、コレクションに追われて、若い頃からの悪習で
最後の最後に慌しく、徹夜することになっても何とか仕上げるクイックな部分との
メリハリも嫌いではない。
何もないチャン島で、永く滞在して退屈しないか?と良く聞かれるが、
私の生活の場が変わるだけで、根本的には普段の生活と変わりない。
既に12回長期滞在して、全て慣れた地で、毎回同じホテルの同じ部屋では
リラックスして仕事も出来るし、今年はパソコンも持って行き
友人のテキストの翻訳もする予定。
フランスと違って、島では朝夕、海やプールで泳いだり、海岸の散歩や
岩場から釣り糸を下げたりも日課として、やろうと思えば出来る。
読書量も普段より多くなる。
パリに戻れば仕事場とアパートの往復で毎日通る、ノートルダム寺院からポン・ヌフに
かけてのセーヌ川とその風景の美しさに今でも魅了され、
メイエ村では田舎道や森での散歩で、綺麗な空気を吸って、
チャン島では好きな夏を存分に味わって生活する。
3箇所でスロー・テンポな理想的な生活が出来る有難さ。
健康な身体に産んでくれた両親に感謝、いつもチャンスを与えてくれた神様に感謝。
そして何より絶えずサポートし続けてくれた友人達に感謝。
今思えば、時間の調整が自分で出来る自由業を続けて来れたことが、
矢張りチャンスの一つだった。
これからもスロー・スローに時々クイック・クイックを程々に交えて
楽しく仕事を続けられるよう願っている。 |