12月から春を待つ生活の場を、バンコックから東300Km程に位置する
カンボジアに近い島、チャン島に移動して、その滞在も無事終了しつつ有る。
長期滞在で毎年来る顔なじみの人達も、次々と帰国して
3月に入ると急に静かになった感じがする。
滞在は後1週間を残すのみ、このまま無事終了できるよう願っている。
2年前の滞在中、スウェーデン人夫妻の、先ず旦那さんが心臓発作で入院、
退院して直ぐ奥さんの方がデング熱にかかってしまい、 本土の同じ病院に入院。
デング熱は2度目に掛かると命取り、と言われるので用心して
以来彼らはタイに来なくなった。
去年まで来ていたチェコの奥さんとイタリアの旦那さん、今年は来ないな、
と思っていたら旦那からのメールで、彼女は闘病の末、
11月に亡くなった、と知らされた。
未だ60代だったのに。。。
3ヶ月の滞在中、毎日欠かす事無く朝から晩迄海岸で過ごす70代後半の、
名物ドイツ人夫婦が居る。
共にこれでもか、という程真っ黒に日焼けして、肌もシワシワなのに気にしない。
ホテル一番の古いお客さ んで、クィーン、キング、と影で言われているカップル。
悪い人達ではないが、おせっかいで、軽率で、下らぬ人の事やらを
アーのコーのと話すので隣同士の部屋だが、ある程度距離を置いてつき合っている。
ある日、夕食から戻ったおりエレベーターとロビーを挟んでの中庭の駐車場で
旦那のカールがガードマンに盛んに興奮して話しているのが見えた。
ビールでも飲み過ぎて、ガードマンに怒鳴っているのかと、ロビーに寄って
10分程新聞に目を通して、エレベーターに向かったら
丁度降りて来たカールと鉢合わせになった。
ひどく興奮しているが、それもそのはず、奥さんのシグリッドが今しがた
モーターバイクに跳ねられて、救急車で病院に運ばれて行ったとのことだ。
これから再び、パスポート其の他もって病院に戻る所と言う。
英語が十分でないので、ドイツ人の友人、バーナードに頼んで、
病院に後から行って貰う事になった。
バーナードが夜中12時前に戻って来て、日本人の奥さんの由美さんと二人して
部屋まで報告に来てくれた。
脳内出血が3ヵ所であって、場合に寄っては手術。
入院、治療が必要で本土の病院に、フェリーをチャーターして向かっているそうだ。
島に住んでいる人達に言わせると、事故はしょっ中有るし、死者が出る事も有るが
旅行者が来なくなると困るので、一切公表しないそうだ。
蚊の感染に寄るデング熱も毎年何人も患者が出るらしいが、
矢張り蚊に注意するように、との告知すら出ていない。
ホテルではもっぱらTV5 Mondeというフランス語のチャンネルを見るが
外国人ツーリストのタイでの不審死を取り扱ったカナダのルポルタージュを見たが、
いくつもケースがあるのにウヤムヤになっている、と家族の嘆きを報道していた。
観光客の足止めになるような事は矢張りここでは報道しない方針らしい。
5日程入院して無事ホテルに戻ったシグリッドと、数日後初めて朝食時に会った。
思っていたよりは元気で、回復が早くとにかく一安心。
顔に痣が出来ているのが、日焼けているせいで目立たなく良かったね、と、
つい口を滑らせてしまった。
本人は朝起きた時、頭痛がひどくて辛い、と嘆いていたが
医者からは4〜6週間は仕方ない、と薬を貰っているらしい。
特に好きな人達ではないけれど、会う度に頭痛が辛くて死にたい程、
と言われると矢張り可哀想だと心底思う。
そんなある朝、早く帰りたい、昨夜は死にたいと思った、と涙ながらに訴えられた。
元々普段から、彼女を茶化して冗談を良く言っていたので、つい冗談心で
“手を当ててあげようか?”と言ってしまった。
“何、馬鹿な寝言?”とでも笑って返すかと、期待しながら。
意に反して、真顔で、“やってくれ”と言って来た。
余りにも真剣な顔で言うので、後悔したが後に引けず、“朝食の後で”と約束した。
思えば自分もヘルペスを煩って、藁にもすがるように、ありとあらゆる人を訪ねて
微かな希望でも託して真剣だったのと同様、彼女も切羽詰まった状態だ、と
心から申し訳なく、自分を恥じてしまった。
自分には全くハンド・ヒーリングの能力が無いのは十分承知の上で、
又沢山の体験をして来た身としては、手を当てて治る訳が無い、
と今では思っているが、少なくとも子供のころ、腹が痛いという時に、
母親が手を当ててくれると何となく楽になった気がした、
という程度の役に立てば良い、と意を決して彼女の待つロビーに向かった。
リラックスして座っているだけで良いから、と気を楽にさせて
心から、早く楽になりますように、と願いながら、手を当てると
自分の手がピリピリ震えた。
我ながら驚いたが、痛い所から頭全体に、気持ちを込めて2〜3分、手を当てた。
終わったよ、とそっと触ったら、気持ちがよくて居眠りしてしまった、と言う。
彼女には治すのは自分の力だから、その意欲が出る為の足しになれば良いけど、と
話して、逃げるようにその場を去った。
動物的な本能で、自己治癒力がより良く働くように。。。
翌日遅めの朝食に降りたら、何と二人して僕の事を待ち構えていた。
昨夜は久しぶりにじっくりと熟睡出来て、今朝は頭が痛くない。
事故以来初めてで、まさに奇跡だ、と言う。
その上、申し訳なさそうに、“又やって欲しい!”と。
結局3日続けて3回手を当てた後、“後は自力で回復させねばならない。
その為の活力が十分既に出来たから、これ以上手を当てても意味が無い”
と打ち切った。
放送局の異名が有る彼女の事、ホテル中、スタッフ皆が知る事実となった。
電話でドイツの娘に話すと、ハンド・ヒーリングの存在を知っていたらしく、
それは良かった、と言われたそうだ。
ただ本人は手を当てるとは、何の事か?日本ではこういう風に病気を治すのか?
と何も分からぬまま、精神的暗示にかかって、治りたい一心が好結果をもたらせた。
帰国予定を遅らさねばならないかも、と当初医者から言われていたようだが
予定通り帰国出来て、まずは目出度し目出度し。
日本でもイベントのお客さんで、IKUOのアクセサリーから元気を貰っている、とか
着けて出かけると必ず良い事が有るんです、とか言われる事が有って
何とも答えようのない時が間々有る。
本当に気に入った物を身にまとえば、自ずと良いオーラーが出て
人にも伝わるのでしょう、と答える事にしている。
デザインが気に入ったら身につけて欲しいとは思うが、
間違っても元気を貰うように、と自分のアクセサリーを勧めた事は一度も無い。
今後、冗談でも、時と場合に寄っては人が信じてしまう事も有り得るので
無責任で軽率な事は言わず、人に迷惑をかける事の無いよう
十分注意しなければ、と大いに自己反省する良い機会となった。
チャン島にて 2013年3月5日
一森 育郎
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