IKUOのひとりごと 〜フランス便り〜


<2015.3.26 File No.31>


Visa習得


タイは観光産業で外貨が大量に入って来る観光国なのに、一般旅行でヴィザなしで入国すると
現在の所30日しか滞在出来ない。

60日観光ヴィザなら簡単にパリのタイ大使館で貰えたのが、ここ数年で変化が起きて、
やれ銀行残高証明だ、往復航空チケットが必要だとかうるさくなった。
尤も基準が良く変わるのでコレから先はどうなるか分からないが。
他にも90日ヴィザで出かける方法も有るが我々は通常、習得がより簡単な60日観光ヴィザで
出かける。



60日以降は一旦タイから外国に行き、再入国すればその時から又30日滞在できる。
チャン島に居る場合は、今なら本土のトラットの町に在る移民局で
60日観光ヴィザで入国した場合に限り、後30日延長してもらえる。

トータル90日の滞在は出来る訳だ。

問題は、それ以上未だ滞在したい時で、外国に一旦出る事なく延長するにはどうするか?
外国に一度出るには何と言っても一旦バンコック迄行って出る事になるので矢張り簡単ではなく、
出来る事なら島に残って習得したいのは誰もが考える事だ。

島からならカンボジア国境迄60km程と近いので日帰りで、車で行く手も有るが
ある時期、陸路で国境越える場合は15日しかヴィザを貰えなかった。



島にある市民病院で偽診断書を書いてもらい、その証明書で移民局に行って
延長してもらった、という話を耳にした。

一度試す価値はある。

自分は3ヶ月切れる間際に日本に行っているので再入国時1ヶ月新たに貰えて問題ないが、
相棒のロベールが残り滞在1ヶ月足らず必要だ。



島の市民病院の医者は慣れた感じで高齢の彼を見て、高血圧という症状で後1ヶ月安静が必要、
と偽証明書をいとも簡単に出してくれた。
そのままフェリーに乗って本土の移民局に連れてもらい、此処でも問題なく1ヶ月延長してくれた。



その次の年は、1ヶ月必要なのに、医者が2ヶ月必要、と証明書に書いたものだから
移民局ではヴィザをそんなに長く必要ないのに関わらず2ヶ月も延長してくれた。
如何に書類上での事で、書類さえ有ればどうにでもなると言う典型的な役所仕事だ。



3度目の正直は、島の市民病院の医者が若い先生に変わっていた。
生真面目で融通が利かず、病気でもないのにそんな証明書は出せないと言う。
なだめすかせて説明してもらって、やっと2週間なら書く。2週間後に来れば
又同様に書類を用意しますから、とこれ以上は無理と解釈。
仕方ないのでそのまま移民局に行って2週間延長してもらい、その後、不足分は結局ラオスに
行くことにしたので、コレなら始めからラオスに行けばもっと簡単だったと後悔しても後の祭り。

以来、偽証明書は医者次第でアテにならない可能性があるので止める事にした。



フェリー開通頃からチャン島の宿泊地の近くにもいくつか商店が出来始めた。
観光客の増えるのを見越して、土地持ちの人達が宿泊施設程、大それた工事でなくとも簡単に
箱を作ればショップとして貸せるので、何ヵ所かで屋台に毛の生えた程度の即席の店ができ始めた。

初めて出来た旅行代理店。

実際には未だエレファント・トレッキングや釣りツアー、自然エコツアーやその他
何もツアーのない時代だから、精々ミニバスの切符売りとか車の手配、島巡りの切符位と
限られた仕事しかない状態だったが、英語の出来るオーナーと前を通る度に話す様になった。



ヴィザ延長の話をした折、彼のお勧めはカンボジア国境迄の車での日帰りツアー。
当時、陸路でも1ヶ月くれていたが、本土トラットの移民局のヴィザ更新代金より、
60Kmの車ツアーで国境超える方が安上がりとも言う。

島での長い滞在中の単調な日々に、車の旅は新鮮かも知れないと、他の人と相席の
国境迄のミニバス・ツアーでなく自家用車でのドライブを楽しむ事にした。



オーナー自身の運転で、朝チャン島出発。
フェリーから下船して本土の海岸線を暫く走り、辿り着いた国境は
食堂、商店がいくつか有って賑わいを見せている。
目的はただ一つ、タイ側の国境を歩いて渡り、すぐ先のカンボジア国境通過入国。
回れ右して再びカンボジア国境で出国手続きをして、再度タイ入国手続き。
コレで又30日間、タイで問題なく滞在できる事になった。



当時のタイは今程未だ裕福ではなかったが、カンボジアはもっともっと貧しかった。
タイ国境側は誰もいなく静な物で簡単な出国用紙を記入すれば良いが
カンボジア側に入ると同時に、目つきの厳しい若者達がドッと押し掛けて来る。
入国、出国用紙記入の手伝いをするというのだ。

自分の名前、パスポート番号、滞在先程度の記入で、誰も手伝い等必要としないが
彼らに取っては僅かなお礼を期待しての事だ。
それ程仕事のない時代で微々たる金でも何か方法を見つけては我先にと、客の取り合い、
それぞれ皆生活がかかっているのだろう。



旅行代理店のオーナー、タングさんは元々チャン島の生まれだが、
成人してからは何もない島に見切りを付けて近辺の町で働いていたらしいが、
近年観光開発が進み生まれ故郷に戻って商売を始めたそうだ。
航空会社の切符発券も出来るよう、エージェントとして真面目にライセンスも習得して開業している。

島に関する情報は島出身の彼が大いに役立った。

何時までたっても使えないファックスを置いているリゾートで、アテにする事なく
彼の所からファックス送受信させてもらい、随分お世話にもなった。



商店が出来始めた島の様子は、来る度に更に新しい店が増えて賑やかになって来た。
第1期ブームではやたら旅行代理店が増えた。

コミッションのみで何も仕入れる必要なく、技術も特に必要なく狭いスペースで
簡単に普通の人でも多少なりとも英語の知識が有れば、即開営業出来るからだろう。
皆がライセンス取っている訳ではないが、徐々に増えて来た島での各種ツアーの切符販売や、
モーターバイクのレンタル、後にはインターネット・キャフェなどこの種の店で間に合う様になった。



悪名高い幾つかの店では、モーターバイクの傷を利用して、何度も同じ傷をお客さんにその都度
弁償させている、との噂を耳にもする。

観光客が来ると、何処でも観光ズレしてイチゲンさんのお客相手に悪いことをする業者が
出て来るのは、残念なことだが人間の悪行の一つだ。



彼女と二人で店を運営していたが、時々愛想の良いタングさんの友人というのが遊びに来る様に
なり、散歩で前を通ると毎回"どこに行くのか?"と質問する。
何処も行く所等ない島の1本道だが、商店をしている顔馴染みは皆同じ質問をする。

どこに行く?というのは一種の挨拶の様だ。
彼ナットという人はオーナーより少し若いが物怖じせず気さくで、誰とでもすぐ
話しかけて仲良くなれるタイプの人で、人から好かれるタイプだ。



当時は未だ自分の仕事、貨物船の船乗りだったらしく長旅で3ヶ月から6ヶ月、
出かけては次の仕事迄の間の休み中に、島に遊びに来ていた様だ。
小樽や横浜にも行ったけど、1月で寒かった事、と思い出して震え上がっていた。



その内、船の仕事を辞めてタングさんところで一緒に働く様になって、前を通ると
相変わらず、"どこに行く?"と聞いて来た。
そのあと数年後チャン島に着いた時は、自分で近くに店を構えていた。
商売の具合は?と聞くと、何時も、暇、と答えるがマメな性格なのでお客さんの
評判が良く確実に成績を上げていた様だ。

ナットの良い所は、安心して頼み事が出来る、お客さんをガッカリさせない。



一度近辺の島で宿泊施設の整っている2つの島に1週間程滞在しようと決めたおり
真っ先にナットに相談に行った。
彼自身、自分で泊まりに行って様子を見て来ているので勧める所は安心出来る。
何の問題もないよう全てきっちり我々の為にアレンジしてくれた。

こちらも安心感が有る分、人に勧める事も出来るので、今は同じ海岸近辺でなく
4キロ程離れた所に店を越したに関わらず、長期滞在者をがっちり掴んで
メールと携帯でお客さんから依頼あれば何時でもすぐ飛んで来て対応も早く
商売繁盛している様だ。



他のエージェントでは切符を売った時点でおしまいだが、彼の場合は、
例えば簡単な釣りツアーであっても、出発の日の朝、出発時間には必ず自分も来て、
迎えの車がちゃんと時間通り来て問題ないか確認してくれるアフターサービスを怠らないのが
皆から信頼される所以だ。

終われば当然、問題なく楽しめたか?と確認に来る。
同じ会社を常時使って他のお客さんに迷惑かける事ないか、確かめる為に。

何もかもいい加減な事の多いタイで、ナットは責任感の強い良い所を持っているが
残念なことにタイで偶然知り合う商売人の中では珍しい人だ。









A Chiang Mai le 6 Mars 2015
 

一森 育郎







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